2014.11.10
お手紙をくださった彼女たちに
『きみは赤ちゃん』を刊行してから色々なところでたくさんインタビューをしていただいて、そのつどに色々な話をしてきたのだけれど、デビュー当時からずうっと読んでくださってるという女性の方たちからも、うれしいお手紙やメールがたくさん届きました。
みなさんのお手紙には共通する部分があって、それは『<どうして子どもをもとうと思ったのか>について、いつかどこかで書いてくれな」ということで、というのも、過去のインタビューや対談やエッセイなどで、わたしは「子どもをつくることにたいして、かなりの躊躇がある」というようなことを、書いたり話したりしてきたからなのでした。
きっと最初からの読者でいてくれる彼女たちは、そんな考えかたというか気分というかに共感してくれる部分があって、そのうえでその変化というか、思い切りについて知りたいな、と思ってくださったのだと思います。そして「自分もいま、子どもを生むべきかどうか、すごく悩んでいる」と手紙には書かれてあって、たぶん、わたしについてだけじゃなく、子どもをもつことについての色々な考えかたにふれたいなと思ってらっしゃるのかもしれません。
わたしが子どもを、もつ、というよりは存在させることを手放しでいいことやな、と思えなかったのは、社会との関係とか、自分が親になれるかどうかとか、そういう具体的なものではなくて、もっともっと単純なものでした。相談もなしに誰かをこの世界に一方的に登場させてしまうことが、すごく、なんというか、あまりにものすごすぎることのように思えて、こっちの勝手な思い込み&価値観だけで、とりかえしのつかないそんなことをやってしまってよいのか、という疑問が、子どものころからべったりはりついて、それが拭えなかったからでした。たとえば、おなじ子どもを育てるのであれば、無いところに有るをつくるより、すでに生まれてきてしまって親を必要としている子どもを養子にするほうが、なんというか、どちらかというといいことなんじゃないかと、そんなふうに思えていたのです。
あとは、自分の母親にたいする気持ちも、けっこう大きな問題でした。
そんなふうに十代、二十代を過ごしてきて、三十代で色々な環境の変化があって、それにともなってわたし自身にも変化があり、そして35歳でわたしは自分で選択して、妊娠、そして出産するわけなのですが……。
先日、雑誌「kodomoe」さんでインタビューを受けました。
これまでたくさん作品や自分のことについてお話する機会はありましたが、今回のインタビューは、分量もたっぷりある記事ということもありますが、これまでとはちょっと違った雰囲気&内容になったと思います。インタビュアーは、島﨑今日子さん。これまで「なんていい記事なんだろう、なんて読み応えのあるインタビューなんだろう……」と思えばかなりの確率でそれが島﨑さんのお仕事だったということもあって、当日は緊張しながら、そして本当に楽しい時間を過ごすことができました。
いつだったか、誰かが言っていたことで印象に残っているのですが、いいインタビュー記事というのは、まとめが上手だったとか、うまく着地させることができているとかそういうことではなく、話す側が自分でもまるで想定していなかったことを話し(取材される機会が多いと、質問にたいする答えを自然に用意するようになってしまいます。よくも悪くも見取り図ができてしまうのです)、一見脈絡なくみえるいくつかの話のなかの文脈を見極め、インタビュイー自身が知らなかったこと、まだ言語化できていなかったことをまるで導かれるようにその場で言葉にしてしまい、それが活字になったようなもので、今回は、本当にそうとしか言えない体験でした。
心のこもったお手紙をくださったみなさんへ、そして、いつも版元にお手紙を送ってくださるみなさんへ、本当は、おひとりおひとりにお返事差しあげたい気持ちなのですが、なかなかそうもできなくて、ごめんなさい。そして、ずいぶん遅くなって、ごめんなさい。今回のロングインタビューが、みなさんがお手紙に書いてくださった質問への何かしらのお返事になっていれば、とてもうれしいです。どうぞよろしくお願いします。